2025年7月、アメリカのCPI(消費者物価指数)が2025年8月12日午前8時30分(米国現地時間)に発表される。
今回の注目点は、CPIが再び3.0%に達するかどうかだ。

2025年2月のCPIは3.1%で、3月には2.8%に落ち着き、5月までそのままだった。そして6月には2.9%に少し回復した。
もし今回3%台のCPIが発表されたら、市場が反応する可能性が高い。
2%台と3%台の違いは、経済的なインパクトが全然違うからだ。
ただし、CPIよりも8月29日に発表されるPCEの方が、実はもっと重要だと私は考えている。
2025年3月28日、アメリカの株式市場は大きな揺れを見せた。

その日、アメリカの10年国債金利が1日で2.65%も下がり、国債価格が急上昇した。
債券トレーダーにとって、アメリカの長期国債の価格がこれだけ一気に上昇すると、まるで1年分の利益を1日で得た気分だ。
株式市場で言うなら、限界価格に達した状態だ。
この日の大きな変動の原因は、PCEの発表にあった。
アメリカの連邦準備制度(FRB)はCPIよりもPCEを重要視している。
2023年のジャクソンホール会議でのパウエルの基調講演を聞けば、これがよくわかる。

その時、パウエルはこんなことを言っていた。
「インフレはまだ高いと感じている。少しずつ下がってはいるが、長い道のりが待っている。
私はCPIではなく、コアPCEを重視している。
コアPCEはまだ高い状態で、あまり下がっていない。
場合によっては、金利をさらに上げるかもしれないから、警戒してほしい。
金利を上げ続けているにも関わらず、経済は不思議なことに順調に回っている。
金利を上げても経済は冷えず、失業率も上がらないので、引き締め政策をどんどん続けても大丈夫そうだ。
みんなが言っている3%や中立金利について、私はインフレ目標を2%に設定するつもりだ。
引き締めをあまりにも弱くしてしまうと、インフレが固定化してしまい、強くしすぎると経済に不必要なショックを与えることになる。だから慎重に進めなければならない。」
実際、パウエルはよく「CPIではなく、コアPCEを見る」と言っている。

今回のジャクソンホール会議でも、CPIだけを見て参加するが、もしCPIが3.0%に達し、PCEも高い結果が出た場合、9月のFRB会議でのパウエルの発言が変わるかもしれない。
消費者物価指数であるCPIは、PCEよりも早く発表されるため、注目を集めやすい。
しかし、CPIには欠点があり、FRBの内部ではあまり重視されていない。
CPIは消費者が実際に支払う商品の価格を示しているが、その大きな欠点は毎年商品バスケットが変更されることだ。

例えば、牛肉の価格が上がると、人々は鶏肉や豚肉を選ぶことが多い。つまり、物価が上昇すると、消費者はよく他の手頃な選択肢に切り替える。
これが「代替効果」と呼ばれるものだ。
CPIは毎年バスケットの品目を変えるため、代替効果を正確に測定することが難しく、物価の数値が歪むことになる。
一方、PCEは毎月バスケットを変更するため、代替効果を最小限に抑えるという利点がある。
そのため、アメリカのFRBはCPIではなく、PCE(個人消費支出物価指数)を重視している。
PCEは毎月最後の金曜日に発表されるため、10日前後に先に発表されるCPIに埋もれ、一般にはあまり注目されない指数となっている。
しかし、パウエルが目標としている2%のインフレ率はCPIではなく、PCEに基づいている。
PCEはCPIと異なり、バスケットの品目だけでなく、その性格自体が違う。
CPIは消費者が実際に支払う金額を基にしているが、PCEは消費者が支払った金額に加え、第三者(例えば雇用主)が消費者のために支払った金額も含まれている。
その代表的な例が健康保険料だ。

雇用主が従業員のために支払う健康保険料はCPIに含まれないが、PCEには含まれる。
そのため、医療費に対する雇用主の支出が含まれることで、CPIでは医療費が8.4%を占めるのに対して、PCEでは22.1%にまで膨れ上がることになる。
これがPCE指数に隠された秘密だ。
PCE全体の22.1%が医療費であり、医療費の支出は簡単には削減できない項目である。
さらに、医療費以外にも、外食費など、削減が難しいサービス費用がPCEに多く含まれている。
そのため、PCEを2%に抑えるというFRBの目標は、達成が非常に難しい目標だと言える。
トランプ前大統領は製薬会社に圧力をかけ、薬価を大幅に引き下げる作業を進めている。
薬価が下がれば、PCE内の医療費が減少し、PCEのインフレが下がる影響を与える。
一見、狂気のように見えるトランプの行動にも、実は隠れた戦略的な意図がある。

ジャクソンホールの‘鳥派’発言はインフレの試練を乗り越えられるか?PCEが待ち構える未来
CPIとPCEの発表の間に、ジャクソンホール会議が控えている。パウエルはこの会議でCPIだけを手にして登場するが、「鳥派的」な発言をしても、実際にはPCEという大きな壁がまだ残っている。インフレの先行指標はすでに動き始めており、その先に待つ試練が明らかになりつつある。会議後、金利がどう動くか、注目しておこう。


