「台湾は電気を捨てて未来を選んだのか?」
AIが電力を飲み込み、TSMCが国全体の電気を吸い上げる――それなのに、台湾は原発ゼロを突き進む。
誰もが「合理的じゃない」と思う選択の裏には、意外すぎる現実が隠されていた…。
大手メディアでは語られない“電気代の真相”と“停電の影”。
そして、半導体業界でTSMCと肩を並べる競合にとっては、思わぬ追い風となる状況が生まれている。

要点を一目でチェック!

【AIサミットで炸裂!原発は要るのか?】

- 5月24日から台湾で「AIトレンド・インサイト・サミット」が開催された。
- ジェンセン・フアンはここで「今後10年のAI産業最大の課題はエネルギーだ。台湾は必ず原子力に投資すべきだ」と発言した。
- これは台湾政府の「脱原発政策」を真っ向から批判した格好だ。
- 台湾では与党・民進党が2016年から脱原発を推進してきた。
- 法改正で新しい原発建設を止め、既存6基の延長運転も認めず、段階的に縮小を進めた。
- そして2025年5月17日、最後に残ったマアンサン原発2号機が停止。台湾は「原発ゼロ国家」となった。
- しかし、原発問題が大きな注目を集めるのは、世界の半導体覇者TSMCの存在があるからだ。

【TSMC、電気を食いすぎ問題】

- 2025年時点で台湾全体の電力の12.5%をTSMC一社が消費している。
- 工場増設を考えると、2030年には台湾全体の24%をTSMCが使う見込みだ。
- もちろん他の産業用電力需要も増加している。
- というのも、台湾の主力産業である半導体は、とにかく電気を食うモンスター産業だからだ。
- 2024年5月、頼清徳総統は就任演説で「台湾をAIアイランドにする」と宣言した。
- だがAIは“電気をむさぼる怪獣”でもある。
- 半導体産業にAIインフラが加われば、電力需要はまさに雪だるま式に膨れ上がる。

【電気代は安かったのに…】

- 台湾の強みの一つは「電気代が安いこと」だった。
- 産業用電力を比べると(2023年末時点)、日本はkWhあたり約30円台なのに対し、台湾は22円前後。
- 夜間電力でも、日本は25円前後、台湾は15円台。大規模工場向けの超高圧料金も台湾の方が2〜3割安かった。
- 月に1000万kWhを高圧で使えば、日本では約30億円の電気代だが、台湾なら20億円台前半で済む。
- ただし「安い」といっても、すでにかなり引き上げられた後の水準だ。
- 台湾の産業用電気料金は2022年に15%、2023年に17%上昇。毎年上がり続けている。
- そして2024年以降も上昇は止まらない。
- 2024年には平均15%アップ、2025年にも10%前後の値上げが予定されている。

【企業泣かせの電気代アップ】

- 特にTSMCのような電力大量消費企業には、最高25%の値上げが課され、負担は一気に増大した。
- 政府は家庭向け値上げを抑える代わりに、産業用に重くのしかけているのだ。
- それでも2024年までは、台湾の産業用電気代は日本よりまだ1割程度安かった。
- しかし2025年の追加値上げで、その差はほぼ消える。
- 結果、TSMCがライバル・サムスン電子より優位に立てていた「安い電気代」という武器は消滅する。
- そもそもの始まりは2016年にさかのぼる。
- この年、民進党が政権を握り、脱原発を国家戦略に据えた。
- 台湾と日本で大地震が発生したことを受け、蔡英文前総統は2025年までに原発を全廃すると宣言した。

【計画倒れの再生エネ】

- その際、エネルギーミックスを「LNG50%、石炭30%、再生エネ20%」と掲げた。
- 当時は6基の原発が稼働し、新北市で新しい原発の工事も進んでいた。
- だが2019年から2024年にかけて5基が停止。
- 新北市の新規原発も9割完成していたのに工事中止。
- 結果、2025年に残ったのは屏東県のマアンサン原発1基だけ。
- それも2025年5月に停止。
- かつて発電の2割を担った原子力はゼロになった。
- ところが再生エネは思うように伸びず、2025年前半時点でシェアは13%止まり。
- 目標の20%には遠く及ばない。

【LNG依存と停電のリスク】

- 石炭火力は環境問題で縮小し、台湾はLNGに発電の87%を依存する国になった。
- ロシアのウクライナ侵攻による価格高騰で、LNGを100%輸入に頼る台湾電力は大赤字。
- 仕方なく石炭を再稼働させ、比率を35%まで戻したが、限界はある。
- さらに2024年は総統選と議会選が重なり、家庭向け値上げは封印。
- その分、産業用にしわ寄せが集中した。
- 「TSMCは儲かってるから電気代くらい払えるでしょ」と思うかもしれないが、実はもっと深刻なのは停電リスクだ。
- 予備率が10%を割ると停電の恐れが高まる。
- 原発停止後、台湾の予備率は7%台まで落ち込んだ。
- 2019年以降、数百万世帯規模の大停電がすでに4回発生している。

【再稼働は難題、人材も消えた】

- 新総統・頼清徳は「2030年以降に原発再稼働を議論」と発言。
- しかし再稼働は容易ではない。
- 脱原発後、大学の原子力学科は消滅し、専門人材は海外へ流出。技術者不足が深刻だ。
- さらに軍事的リスクもある。
- 台湾は原子力の代わりにLNG輸入を拡大した。
- だがLNGは長期保存できない性質がある。
- 台湾の備蓄はわずか11日分。
- 中国が11日以上封鎖すれば、一気にエネルギー危機となる。
- 中国が軍事演習で台湾封鎖を繰り返す理由が、まさにここにある。

【国民投票で揺れる民意】

- 2025年8月、野党・国民党は脱原発を問う国民投票を発議。
- 対象は停止したマアンサン原発の再稼働だったが、実質的には脱原発の是非を問うものだった。
- 実は2021年にも同じような投票があった。
- 当時の龍門原発は建設費9兆円を投じた巨大プロジェクト。
- だが完成直前で脱原発政策により稼働せず凍結された。
- 2021年12月の投票では賛成38.5%、反対61.5%で否決。
- 永久停止が確定した。
【民意は逆転、それでも通らず】

- 2025年8月23日、今度は第3原発・マヤナン原発の再稼働を問う投票が実施された。
- 民進党は「全員で反対票を」と呼びかけた。
- しかし結果は賛成434万票(74.1%)、反対151万票(25.8%)。
- わずか4年で民意は劇的に変わった。
- とはいえ再稼働は成立せず。
- 理由は投票率不足。
- 台湾では有権者の25%以上が賛成しなければ成立しない。
- 有権者は約2000万人、つまり500万票以上必要。
- 圧倒的賛成率でも、賛成票は434万に届かず不成立となった。
- それでも「台湾国民の多くが脱原発に反対」という事実は動かない。
- 民進党の地盤である中南部でも6割以上が賛成、マアンサン原発の地元・屏東でも58%が賛成票を投じたのだ。

【民進党の結論は…】
- 頼清徳総統は「国民投票一度で決着しない。安全は科学的検証が必要。将来技術が進歩し、核廃棄物問題が改善され、社会の理解が広がれば、原子力を完全に否定しない」と語った。
- 要するに「今は脱原発を続ける」ということだ。

【アルファ禅インサイト:選挙は遠く、電気は近く】
台湾は日本で言えば「総理と国会議員選挙を同時にやる」ような国だ。次の選挙は2028年。与党・民進党にとっては、まだたっぷり時間がある。
この間は「脱原発路線」を簡単に変えることはない。
TSMCが電気を食い尽くそうが、停電リスクが叫ばれようが、政策の舵は当面そのままだろう。
一方で、TSMCのライバルであるサムスン電子にとっては?
台湾の電気代が上がり続けるなら、「競争相手が勝手に疲弊してくれる」のだから、正直ありがたい話に違いない。
結局のところ、電気代やエネルギー政策は単なるコストの話ではなく、「国全体の競争力」を左右する問題だ。
そして台湾の選択は、半導体覇権の未来までも動かしてしまうのだ。



